2008年2月4日に10周年を迎えるDOUBLEが初のBEST ALBUMを遂にリリース。 第二回 音楽プロデューサー 松尾潔スペシャル・インタビュー第2弾は、DOUBLEをはじめ、久保田利伸、平井堅、CHEMISTRY、EXILEなど、数多くのアーティストの作品を手掛けている音楽プロデューサー、松尾潔氏。氏が手掛けたサード・シングル「BED」の制作秘話や、当時巻き起こっていたR&Bブームについて、9年振りにタッグを組んだ最新シングル「残り火-eternal BED-」の話や、今後のジャパニーズR&Bの展望など、本当に多くの話を伺うことが出来たが、ジャパニーズR&Bを牽引してきた氏の発言は一言一言すべてに説得力があるし、興味深い話の数々に筆者もいちR&Bファンとして興奮を覚えながら話に聞き入ってしまった次第だ。この興奮をより多くの人と共有すべく、氏の話を出来る限り掲載した結果、かなりのヴォリュームとなってしまったが(実際のインタビュー時間、3時間半!)、他ではなかなか読むことの出来ない濃い内容に満足して頂けるのではないかと思う。 text by 川口真紀 PART III :新曲「残り火 -eternal BED-」とは?そしてDOUBLEの存在理由とは? ――そして来たるデビュー10周年に先駆けて、9年振りにタッグを組んだシングル「残り火-eternal BED-」がリリースされました。曲作りはどんな感じで進んだのですか?「今年の夏に久しぶりに会食する機会があって。そこで音楽的な話し合いをしようと思ってたんですけど、音楽的な話はほとんどせず(笑)、コイバナばっかりしたんですね。そこで聞いた彼女の過去の恋の話が歌詞のモチーフになってますね。あとTAKAKOちゃんは僕がプロデュースしたEXILEの「Lovers Again」が好きだって話をしてくれて。ならば「Lovers Again」で組んだJin Nakamuraさんを今回のプロジェクトに引っ張り込もうと考えました。TAKAKOちゃんと3人でソングライティング・チームを作ろうと思っていたんですけど、最初に僕が作った叩き台をTAKAKOちゃんに聴いてもらったら、これでバッチリですと言われて。制作は松尾さんにお任せして、私は歌うことに専念したいと言い出したんですね。デビュー当時は曲に自分の色が入ってないってことであんなに怒ってた彼女が、今回は歌うことに専念しますって言い出したのにはビックリ。本当にいいの?って感じでした。1点だけ、トラックを女っぽくして欲しいっていうリクエストはあったんですけど(笑)それくらいでしたね。けど歌うと完全にDOUBLEの曲になるから、その存在感たるや、本当にすごいなと痛感しました。ちなみに、「女っぽいトラック」の参考にって持ってくるものがジャネットとかアリーヤとか、9年前となんら変わってないんですよ。よく言えば好きなものが変わってないし、ブレがない。驚きますね、そのブレのなさに。今出てるR&Bももちろん好きだろうけど、彼女は決して隅から隅までチェックしてるわけじゃないと思う。それでも彼女のヴァリューは下がらないですよね。決して彼女は知識量を競うところにいるわけじゃないですから。アーティストのあり方としては、シャーデーに近いんじゃないかな。」 ―― 決して知識が豊富でなくとも、DOUBLEの構成要素にはR&Bが存在すると。「そうなんですよね。不思議だよなー。スタイリングひとつとってもTAKAKOは着物姿でもブラック・テイストみたいなものは出てますしね。この前久しぶりにアリシア・キーズのライヴを見たんですよ。セレブ風ストレート・ロング・ヘアで東海岸のお嬢さんみたいなルックスになっていましたけど、歌いだすと何も変わっちゃいない。アリシアは ピアノ1台だけでソウル・ミュージックが歌えるけど、ファーギーがソウルっぽさ、R&Bっぽさを出そうと思ったらウィル・アイ・アムやポロウ・ダ・ドンの作り出すビートを必要とするんですよね。元々含んでる人と、身に纏ってる人の違いというか。身に纏ってる人は服を脱いでお風呂に入る時はR&Bじゃないんですよね。TAKAKOちゃんは“含んでる人”なわけですよ。「残り火」のジャケットのタイトルのフォントも、あれ単体で見るとちょっと昭和の匂いさえ感じるものなんだけど、DOUBLEの写真の下にこのフォントで「残り火」って書いてあると、残り火っていう日本語がすごくブラックネスを帯びてくるような感じがするんですよね。元々R&Bとソウルの違いを考えた時に、ソウルフルとかファンキーっていう言葉はその人の生き方とか雰囲気を表す言葉として既に市民権を得てますけど、R&Bっていう言葉はあくまでも音楽の形態であって、精神性までは含んでいません。やっぱりアティチュードを表すときはソウルフルとかファンキーって言葉の方が全然強いですよね。けどDOUBLEのアティチュードを表すとしたらソウルフルでもファンキーでもなく、やっぱりR&Bなんですよ。DOUBLEは存在自体がたまらなくR&B的なんです」 ―― 9年振りに仕事をしたことで、彼女のシンガーとしての成長も窺えましたか?「勿論です。「残り火」を作ったことで、まだ彼女にも新しい表現が残っていたんだなと改めて思ったし、彼女も新しいことをやったって気持ちになってくれたみたいです。今、彼女とは本当に話が合うんですよ。「残り火」もストレスなく作れたし、彼女もストレスがなかったと思う。いいものを作ろうっていう共通の気持ちがありましたから。お互い大人になったんでしょうね。だから今回の仕事をやって、こんなに悲しい曲にもかかわらず非常に元気になってしまいました(笑)。自分が制作という裏方の仕事をなぜ続けてきたのかも、今回の仕事を通してよくわかりましたね」 ―― 再び日本のR&Bについてのお話をお伺いしたいのですが。今、再びジャパニーズR&Bが盛り上がってきてると言われてますが、それについてはどう思いますか?「そうなんですか? 少なくともメーカーの人と話してる限りではあまり悠長なことは言ってられないなっていう感じですけど」 ―― けど若いシンガーにインタビューすると「R&Bをやりたいです」っていう子が多いんですよ。それこそ10年前は雑誌のR&B特集でインタビューしに行ったにもかかわらず、「私はR&Bシンガーじゃないですから」っていうシンガーがほとんどだったんですが、けど今は私はR&Bが好きで、R&Bシンガーになりたいんだっていう子が多くて、それはこの10年で変わったなってすごく思うんです。R&B好きとしてはそういう子が増えてるのは純粋に嬉しいなって思うんですけどね。「そういう風に言ってるんだ。僕の前でも言って欲しいなぁ。僕は最近「こういう子がいますけど」みたいな形でしか若いシンガーと知り合えないんで(笑)。けどそういう子が増えてるんだとしたら、シーンは曲がりなりにも出来ているってことなのかな? 少なくともR&Bという言葉が定着したってことではありますよね。僕は歌謡曲は途轍もなく大きな世界だと思っていて。ラヴ・サイケデリコとかエゴ・ラッピンがやってるようなメジャーシーンではギリギリ端っこに位置する歌モノも歌謡曲だと思ってるんです。歌謡曲という大きな長屋があるとして、その中にR&Bっていう、そんなに広くないかもしれないけど、それでも部屋を一つきちっと作ることは出来たってことかな?少なくとも言葉は認知されたわけだから。結局その言葉の意味を逸脱できるくらいのダイナミズムがある人だけが、言葉の意味を継承できると思うんですよ。2ステップの王様のクレイグ・デイヴィッドは2ステップからはみ出したからこそ、2ステップを牽引できたわけじゃないですか。「Fill Me In」は2ステップってところで売れたわけじゃない、歌モノとしての心地好さで売れたわけですから。<歌モノとしての心地好さ>は、みなさん異論あるかもしれないけど、それ自体が歌謡曲ってことの定義なんですよね。心地好い曲、好きな曲って歌いたくなるじゃないですか。踊りたくなるものでもあるし、歌いたくなるものでもあるし、聴きたくなるものでもあるし、それら全てあってもいいし、その中の一つでもいいけど、好きな曲って必ずそういう気持ちになるものですよね。けどそれって考えれば考えるほど歌謡曲なんですよ。R&Bもそうあるべきだと思うんです」 ―― では最後に、今後のTAKAKOさんには何を求めますか?「不老不死でいて欲しい。半分冗談で半分本気で言ってますけど(笑)。彼女は常に新しいことをやりたいと言ってますけど、彼女が35になった時には35の人にしか見えない景色を初めて歌うことになるし、そこで新しい道が開けてくると思うんです。だからその歳々に見合った歌を歌って欲しいです。なんて、僕が言わなくても本人が一番わかってるって言われそうですが。結局そのままでいて欲しいってことになるんでしょうね」 |
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